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岡山地方裁判所 昭和32年(行)10号 判決 1962年12月26日

原告 勝地虎一 外二名

被告 岡山市長

主文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

一、当事者のもとめる裁判

原告等訴訟代理人は「被告が岡山復興都市計画区画整理施行のため、岡山都市計画第二工区第三八ブロツクについて原告勝地及び同小幡に対しいづれも昭和三三年一〇月二七日、原告入江に対し同年一一月二八日夫々なした仮換地指定処分はいづれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決をもとめ、

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決をもとめた。

二、原告等の主張(請求の原因)

(一)  原告勝地は岡山市内山下三五番の一九に二一坪七合七勺の、同小幡は同所三六番の一八に合計一四四坪九合七勺の、同入江は同所三五番の三〇に三四坪一合七勺の土地を夫々所有し、右各土地はいづれも被告施行の岡山復興都市計画による土地区画整理設計書第二工区第三八ブロツク(以下単に本ブロツクという)内に存する。

(二)  被告は昭和二三年五月六日岡山復興都市計画による土地区画整理のための設計(以下には事業計画という)につき岡山県知事の認可を得、同年七月これを施行規程と共に告示した。

その後被告は右事業計画を変更し、昭和二九年一一月二四日岡山県知事に対し右変更の認可を申請し、昭和三〇年三月二二日付でこれが認可を得た。

(三)  しかるに、右事業計画及び右変更認可申請書には、本ブロツク内に巾員四米の道路を新設する計画の記載がなく、僅かに右申請書添付の図面にその記載があつたに止まる。

(四)  ところで、被告は右事業計画を本ブロツク内に巾員四米の道路を新設するよう変更するについて県知事の認可があつたものとして、原告勝地に対し岡山市内山下三五番の一九の二〇坪四勺、同小幡に対し同所三六番の一八の一〇七坪七合五勺及び同所三六番の二七の二五坪、同入江に対し同所三五番の三〇の二四坪四合を夫々仮換地として指定すべき案を作成し、これを昭和三一年一〇月八日招集の土地区画整理審議会に附議諮問し、これが賛成可決を得て請求の趣旨掲記の各日時に原告等に対し夫々右案の通りの仮換地指定処分をし、その結果原告等の各所有地は夫々削減されることとなつた。

(五)  しかし、右仮換地指定処分は次の理由により無効である。

(1)  右仮換地指定処分は、右の如く本ブロツク内に巾員四米の道路を新設するよう変更された事業計画を前提とするものであるが、右事業計画には次のような瑕疵があるから、これを前提とする仮換地指定処分は無効である。

(イ) 右事業計画変更の経緯は(三)記載の通りであつて、このような不備な変更認可申請に対して(二)後段記載の通りの認可があつても、右を以て本ブロツク内に巾員四米の道路を新設することを内容とする事業計画につき認可があつたものと解するを得ない。

従つて、事業計画の変更について土地区画整理法による県知事の認可を得ていないことに帰する。

(ロ) 事業計画の右変更には土地区画整理法により予め縦覧手続を必要とするところ、被告はこれが手続を履践していない。

(ハ) 本ブロツクは商業地域であり、且つ準防火地域である。従つて、もし道路を設けるならば巾員八米以上(特別の事情により止むを得ないと認められる場合でも巾員六米以上)でなければならず、巾員四米の道路を設ける変更後の事業計画は土地区画整理法六六条、六条四項、同法施行規則九条(特に第三号)に反する。

(ニ) 建築基準法四三条は「建築物の敷地は道路に二米以上接しなければならない」と規定するところ、右変更後の事業計画において新設される道路は、同法四二条一項各号所定の道路に該当しないと解されるから、結局右事業計画によれば同法四三条に違反することなく建築することは不可能となる。

以上の瑕疵があるからいづれにしても右変更後の事業計画は無効である。

(2)  仮換地の指定をする場合被告は土地区画整理委員会の意見を聞かなければならないのであるが(土地区画整理法九八条三項末段)、被告は(四)記載の仮換地指定案を右記載の通り右委員会に附議諮問するにあたり、巾員四米の道路を新設するについては本ブロツク内住民の円満な解決をみたと偽り、実情にうとい各委員を欺罔して右案を賛成可決させたものであるから、適法にその意見を聞いたものとはいえない。

従つて、右仮換地指定処分は無効である。

三、被告の答弁及び主張

(一)  請求原因(一)乃至(四)記載の事実及び(五)(1)(ロ)記載の事実は認める。

(二)  しかし、本件仮換地指定処分は無効ではない。特に、

(1)  請求原因(五)(1)(イ)について。原告主張の道路というのは当初の事業計画にあつた巾員一米半の通路を巾員四米に拡張したものであるが、右拡張については原告等主張の((三))変更認可申請書添付の図面に通路として明示し(なお、右は通路であるから区画街路としての路線番号は付していない)、且つ右申請書にも坪数の増減の部に記載してあるから、請求原因(二)後段記載の認可により県知事の認可を得たことになる。

(2)  右(ハ)について。本ブロツクが商業地域であり、且つ準防火地域であることは認める。ところで土地区画整理法及び同法施行規則施行以前のものである本件事業計画における設計についての基準は「昭和八年七月二〇日発都第一五号(リ)土地区画整理設計標準」によればよく、右の第二設計5には「道路巾員ハ六メートル(三間)以上ト為スコト但シ主要道路ヨリ分岐スル道路ニシテ三街廓以上ニ亘ラザルモノハ巾員四メートル(二間)迄ト為スコトヲ妨ゲズ」とあるから、右事業計画には原告等主張のような瑕疵はない。

(3)  右(2)について。被告が原告等主張のように各委員を欺罔したことはない。

四、証拠<省略>

理由

一、請求原因(一)乃至(四)記載の事実はいづれも当事者間に争がない。そこで原告等主張の各無効原因について順次判断する。

二、右(1)、(イ)について。いづれも当事者間に争のない請求原因(二)(三)記載の事実に、いづれも成立に争のない甲第二、第三号証の各一、二及び証人村上義信の証言を合せ考えると、特別都市計画法に基く岡山復興都市計画による土地区画整理のための当初の事業計画は昭和二九年頃国の財政規模に応じて施行地域が縮少されたために設計変更がなされ、特に道路の改廃、通路の新設廃止等について変更がなされたこと、当初の事業計画においては本ブロツク内に巾員一米半の通路を設けるよう計画されていたが右変更によりこれが巾員四米に拡張されることとなつたこと、右拡張については右事業計画の変更認可申請書添付の縮尺一、二〇〇分の一の図面(甲第三号証の二)に明示され、且つ右拡張に伴う土地の減少は右申請書の坪数の増減の部に記載されていること(なお、当初の事業計画においても右通路は右計画添付の縮尺一、二〇〇分の一の図面に表示されていたに止まる)及び右変更については原告等主張の日時に被告から右申請書を以てこれが認可の申請がなされ、右主張の日時付を以て岡山県知事から認可がなされたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。ところで事業計画又は変更認可申請書とこれに添付されている図面とは彼比一体をなすものであることを考えると、変更認可申請書と右添付の図面における右認定の如き記載乃至表示により右認定の通路の巾員の拡張という変更は十分に明らかにされているものというべく、従つて右認定の認可により当初の事業計画の変更について所要の認可があつたものというべきである。よつて、これなきことを前提とし改めて土地区画整理法所定の県知事の認可を要するとするこの主張は理由がない。

三、右(1)、(ロ)について、右記載の事実は当事者間に争がない。ところで右認定の通り右土地区画整理は特別都市計画法に基く特別都市計画事業として施行されたものであるところ、右事業計画の変更当時において準拠すべき右特別都市計画法及びその附属法令並びに右法により準用される耕地整理法及びその附属法令には、事業計画の変更につき予めこれを縦覧に供すべき規定は存しない。従つて、右変更の後である昭和三〇年四月一日施行された土地区画整理法の規定に基き、右を縦覧に供することを要するとし、これなきことを以て瑕疵があるとするこの主張は理由がない。

四、右(1)、(ハ)について。本ブロツクが商業地域であり、且つ準防火地域であることは当事者間に争がない。そうして、右事業計画のうち土地区画整理法又はこれに基く命令の規定に違反する部分は同法施行後においては効力を有しないものであることは同法施行法五条一項及び二項末段により明らかであるから、被告のその主張の基準に準拠すれば足るとの主張((二)(2))は右事業計画を前提とする仮換地指定処分が同法施行後になされた本件においては理由がない。しかしながら、原告等主張の同法及び同法施行規則の規定(特に同法施行規則九条三号)は区画道路に関するものであるところ、前示甲第三号証の一、二及び証人村上の証言によれば本件において問題となつている巾員四米のものが直ちに右に該るものとはなし難い。従つて、右巾員四米の通路を新設することを以て右区画道路の新設であるとして、右各規定に違反するとする原告等の主張は理由がない。

五、右(1)(ニ)について。右の巾員四米の通路が原告等主張のように建築基準法四二条一項各号所定の道路に該当せず、ために原告等主張のような障害を生ずる虞があるとは直ちになし難いのみならず、成立に争のない乙第一号証及び前示証人村上の証言によれば右のような障害を生ずる虞のないことが明らかである。従つてこの主張は理由がない。

六、右(2)について。被告が土地区画整理審議会の意見を聞くにあたり、原告等主張のようにいつわりをいい右審議会の委員を欺罔したことは、原告等の立証によるもこれを認めるに足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。のみならず、そもそも右審議会は単に諾問機関にすぎないと解するのを相当とするからその諮問手続が経由された限り、右審議の内容にかりに瑕疵があつたとしても、右諮問を経てなされた被告の本件仮換地指定処分そのものに直ちに重大、明白な瑕疵があるものとはなし難いのである。従つてこの主張は理由がない。

七、以上の通り原告等が本件仮換地指定処分が無効であるとして主張するところはすべて理由がないから、原告等の各請求はいづれもこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用のうえ主文の通り判決する。

(裁判官 辻川利正 川上泉 矢代利則)

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